虫歯・歯周病予防で笑顔を守る:予防歯科のいろは

彩り豊かな人生を送るための口腔ケア(デンタルケア)ブログ

フッ素の虫歯予防効果を初心者向けに徹底解説

今日は虫歯予防で必ず聞く「フッ素」について。

先日、もっとも虫歯にならない方法は
糖質の摂取を減らすことだ
 と言いました。

それは間違いない事実ですが、国際的には
それ以上に推奨されているのが、フッ素です。

フッ素は万人にとって、確実に虫歯リスクを
下げられるものだと考えられています。

歯磨き粉の広告でも
「高濃度フッ素配合」といった
売り文句がよく書かれています。

では、このフッ素は具体的に
どう働くのでしょうか?

今日はその原理を説明しますね。

なぜ虫歯予防にはフッ素がいいのか?

フッ素には、

・歯質強化
再石灰化の促進
ミュータンス菌の弱体化

という3つの効果・効能があります。

1.歯質強化

歯の表面を覆うエナメル質は、
97%がハイドロキシアパタイトという
結晶でできていると、以前お話しました。

ここにフッ素が組み込まれると、
フルオロアパタイトという物質へと変化します。

そして、ハイドロキシアパタイトより
フルオロアパタイトのほうが、
ミュータンス菌の生成する酸に対し、
抵抗力が強いのです。

 

具体的に言うと、元々の歯はpH7の中性。

そこから食事をすると歯は酸性へ傾き、
一気にpH4まで落ちます。

その際、フッ素がないハイドロキシアパタイトは、
pH5.5で溶け始めるのに対し、フッ素を加えた
フルオロアパタイトはpH5で溶け始めるのです。

要はpHが1オーバーするのか、
1.5オーバーするのかの違いが生まれます。

この0.5の差が非常に大きいのです。

これだけで虫歯リスクは約30%下がる
というデータがあります。

2.再石灰化の促進

エナメル質から溶け出した
カルシウムやリン酸(脱灰)が、
再度取り込まれることを再石灰化と呼ぶと、
以前の記事で解説しました。

フッ素は、これらカルシウムやリン酸の
再吸収を促進する効果があります。

つまり、ダメージを受けた歯の修復を速めてくれるのです。

また、虫歯で歯に穴が開くと
もう元通りにならないとも言いましたが、
初期虫歯に限り、糖質を控えながらフッ素を
摂れば、修復できるケースがあります。

初期虫歯ができると、その箇所がやや白く見えます。
 ホワイトスポットと呼ばれるのですが、フッ素により
 その部位を回復できる場合があるのです。ただし
 穴が完全に開いてしまうと、もう修復はできません。

3.悪玉菌の弱体化

フッ素は虫歯菌(ミュータンス)に対し、

・増殖
・酸の生成
歯垢プラーク)の形成

をそれぞれ抑制します。

これによりミュータンス菌の働きが
大幅に弱まるのです。


平たく言うとフッ素は、

・歯の防御力を高める
・歯の再生を速める
・虫歯菌を弱くする

という、虫歯予防の万能薬なのです。

このフッ化物で虫歯予防することを
『フッ化物応用』と呼びます。

虫歯リスクの高い方は、
迷わずフッ素を取り入れましょう。

フッ素とフッ素化合物(フッ化物)

先ほどからフッ素フッ素と言っていますが、
厳密に言うと歯磨き粉などに含まれるのは
フッ素化合物(フッ化物)と呼ばれるものです。

 

まず、本来のフッ素は原子番号9の元素。

土壌や海水に存在する他、
私たちが日常的に摂取している
肉、魚、貝や海藻、野菜、果物、
緑茶やウーロン茶にも含まれています。

このフッ素は単体だとほとんど存在できません。

すぐに他の元素と反応し、
フッ素化合物と呼ばれる物質に変化します。

オーラルケアで使われているフッ素は、
正確にはこちらの『フッ素化合物 (フッ化物)』です。

これを頭の片隅に置いておいてください。


ネット情報を見ていると、
「歯磨き粉に含まれているフッ素は猛毒!」
という話をよく目撃します。

ただしこれは大きな誤解です。

たしかに本来のフッ素は人体にとって猛毒。

そこだけ切り取って見ると、
「歯磨き粉にはヤバい成分が配合されている!」
となります。

 

が、オーラルケアにおけるフッ素はフッ化物です。

化合物であれば、過剰摂取しない限り
人体に害はありません。

(現在の日本では、
フッ素濃度1%以下にされたものが
普通薬として用いられています)

 

ところがフッ化物をフッ素と呼ぶ風潮のために、
「歯磨き粉の成分は猛毒!」という誤解を
生んでしまっているのです。

これはフッ素とフッ化物を混同して呼んでいる
歯科業界にも問題はあると思いますが…

猛毒のフッ素とは別物と捉えてください。


むしろフッ化物は先ほど挙げたような、
さまざまな虫歯予防のメリットを
私たちにもたらしてくれるのです。

フッ素濃度について

フッ素濃度はppmという単位で表されます。

これはparts per millionの略。

100万分の1という単位です。

水1リットル中に1mgの物質が含まれていたら、
その濃度は1mgです。

 

そして市販されている歯磨き粉のフッ素濃度は、
多くが950ppm~1,450ppmです。

商品によりフッ素濃度がバラついているのですが、
この理由は2つあります。

理由1.歯磨き粉に配合できるフッ素濃度の法改正

元々、日本で歯磨き粉に配合できる
フッ素は1,000ppmまででした。

が、2017年に法改正が行われ、
1,500ppmまでの配合が許可されました。

1,000ppmの場合は歯磨き粉1g中にフッ素が1mg、
1,500ppmの場合はフッ素が1.5mg、
含まれていることを意味します。

 

ただし、1,000ppmや1,500ppmギリギリだと
ロットにより誤差が生じ、その量を
超えてしまう恐れがあります。

そのため市販の製品のフッ素濃度は、
少し余裕を持って950ppm、1,450ppmを
配合しているのです。

 

この法改正後から、市販の歯磨き粉は
順次アップデートされ、フッ素濃度が
1,450ppmへと引き上げられてきました。

有名どころで言うと、

クリニカアドバンテージ、クリニカPRO
・ガムプラス、ガム歯周プロケア、ガム ハグキラボ
・システマEX、システマ ハグキプラス、システマ ハグキプラスプレミアム
・NONIO ホワイトニング、知覚過敏ケア
・クリアクリーン ネクスデント、プレミアム
・シュミテクトシリーズ

などは1,450ppmのフッ素が配合されています。

 

一方、2017年以前から売られ続けている歯磨き粉、
虫歯予防をメインとしていない歯磨き粉、
安い歯磨き粉などは、いまでも950ppmの
フッ素濃度である場合もあります。

クリニカ・GUM・クリアクリーンの
いちばん安いものや、NONIOの通常版、
オーラツーシリーズなどは950ppmです。

 

よって、あなたの虫歯リスクが高い場合、
なるべく1,450ppmの製品を選ぶといいでしょう。

理由2.年齢別のフッ素濃度について

法改正の他にもう1つ、
子供向けか大人向けかでも
フッ素濃度が変わってきます。

これは子供が高濃度フッ素を摂取すると、
中毒症状を起こす恐れがあるためです。

よって6歳未満の子供には低濃度フッ素が用いられます。


まず2023年までは、

0~5歳まで:500ppm
6~14歳まで:950ppm
15歳以降:1,450ppm

が推奨されていました。

 

が、2023年1月に推奨濃度が変更され、

0~5歳まで:950ppm
6歳以降:1,450ppm

と引き上げられたのです。

(いまでも薬局へ行くと乳幼児向けの
歯磨き粉で500ppmのものを見ます。
が、そのうち販売されなくなると思います)

したがっていまの歯磨き粉は子供用だと950ppm、
大人用だと1,450ppmのフッ素濃度が上限です。

 

こういった事情があるため、
いまの日本では1,000ppmを超えた
フッ素が配合されている場合、その旨を
パッケージに記載しないといけません。

1,450ppmのフッ素が配合されている
歯磨き粉のパッケージを見ると、

「高濃度フッ素配合 (1,450ppm)」
「6歳未満のお子さまには使用しないでください」

などと書かれています。

法律で表記が義務付けられているのです。

逆に、どこにもそういった表記がなければ、
フッ素濃度は1,000ppm未満と言えます。

 

したがって、

・1,450ppmの歯磨き粉を買いたい
・子供用に1,000ppm未満の歯磨き粉を買いたい

といった場合は、パッケージを見ましょう。

年齢別・歯磨き粉のオススメ使用量について

フッ素濃度の他、歯磨き粉の使用量についても
年齢別に推奨量があります。

使用量が多いと大量のフッ素が取り込まれるので、
2歳以下、5歳以下では注意すべきということですね。

具体的には以下のようなガイドラインがあります。

簡単にまとめると、

2歳以下:950ppmの歯磨き粉を1~2mm使用
3歳~5歳:950ppmの歯磨き粉を5mm使用
6歳以降:1,450ppmの歯磨き粉を2cm使用

ということです。

フッ素濃度と虫歯予防効果の関係

ここまでフッ素濃度について話してきましたが、
フッ化物がハイドロキシアパタイトと結合し、
フルオロアパタイトになるには、

「濃度300ppm以上+歯に触れる時間2分以上」

が必要と言われています。

これにより歯質強化が起こるのです。

 

そう聞くと
「300ppm?1,500ppmと比べて随分少ないな」
と感じるかもしれません。

これはどういうことかと言うと、
歯質強化を起こすには、
フッ素が歯に触れているときの濃度が
300ppm以上でなければならないのです。

 

歯磨き粉のフッ素濃度が1,450ppmでも、
ブラッシング中にペーストは引き延ばされ、
唾液により希釈もされます。

よって、歯に触れている部分の
フッ素濃度は下がっていくのです。

つまり1,500ppmのフッ素濃度でも、
そのまま1,500ppmが作用するわけではなく、
希釈されてなお300ppm以上を保たないと、
歯質強化は起こりません。

だからこそ高濃度フッ素が有効であると共に、
歯磨き粉の使用量も大切なのです。


また歯質強化だけでなく、
再石灰化ミュータンス菌の弱体化も、
フッ素濃度の高いほうが効果は強くなります。

よって、大人なら高濃度フッ素が望ましいのです。


そしてこのフッ素濃度は1,000ppm以降、
500ppm上がるごとに6%ずつ
虫歯リスクが減少します。

つまり高濃度であるほど効果は高くなるのです。

 

そのため海外ではフッ素濃度5,000ppmもの
歯磨き粉も売られています。

日本でもさらなる高濃度フッ素の
許可を望む声は多いのですが、
現状では1,500ppmが上限。

虫歯リスクの高い方は、
1,450ppmの歯磨き粉を使用しましょう。

定期検診で塗布されるフッ素について

歯医者さんの定期検診などで、
よくフッ素が塗布されます。

あれは大人の場合、9,000ppmという
超高濃度フッ素が使用されています。


9,000ppmまで行くと面白い現象が起こり、
歯の表面に強固なフッ素層が形成されます。

それにより効果の持続時間が伸びるため、
検診を終えたあともしばらく、
虫歯予防効果が続くのです。

とは言え定期検診は3ヶ月に1回程度だと思うので、
それよりは日々1,450ppmのフッ素を
摂取し続けたほうが虫歯は予防できます。

3種類のフッ素化合物

最後に、だいぶ細かい知識になりますが、
歯磨き粉に使われているフッ化物には
大きく分けて3つの種類があります。

フッ化ナトリウム
モノフルオロリン酸ナトリウム
フッ化第一スズ

です。

それぞれのフッ化物の特徴を以下にまとめます。

1.フッ化ナトリウム(NaF)

・歯の表面に素早く作用する
プラーク中のフッ化物濃度を高める効果が高い
初期虫歯の予防・治療に効果が高い
・歯の深部には浸透しづらい

2.モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)

・フッ化ナトリウムよりも3倍以上、歯の深層まで浸透する
・毒性が低く、安全性が高い
・フッ化ナトリウムに比べて、むし歯予防効果の作用が遅い
プラーク内では分解されてしまう(磨き残しがある状態で使うと効果が減る)

3.フッ化第一スズ(SnF2)

・虫歯菌に対する抗菌作用がある
・歯が着色してしまう(ホワイトニング歯磨き粉で除去可能)
・スズが含まれるため金属アレルギーの方は注意が必要

 

いま販売されている歯磨き粉のほとんどでは、
フッ化ナトリウムが採用されています。

GUMシリーズなど一部では
モノフルオロリン酸ナトリウム、
そして子供向け歯磨き粉などごく一部では
フッ化第一スズが使われています。

 

それぞれ特徴はありますが、明らかに
虫歯リスクが変わるほどの違いはありません。

フッ素は摂取しているかしていないかが重要です。

種類の違いは、豆知識くらいに留めておきましょう。

 

(余談ですが2021年まで花王から販売されていた
 クリアクリーン ダブルプラスという歯磨き粉には、
 フッ化ナトリウムとモノフルオロリン酸ナトリウムが
 両方配合されていました。

 今では終売していますが、在庫は残っているようで、
 Amazonなど一部のネットショップで購入できます)

虫歯予防のフッ素(フッ素化合物、フッ化物)まとめ

以上が虫歯予防に効果的と言われるフッ素の解説です。

フッ素は他のあらゆる虫歯予防方法と比べても、
万人において確実に効果のある方法だと
考えられており、国際的にも推奨されています。

 

ただし、
万人に効果がある=絶対虫歯にならない
ではありません。

"万人にとって虫歯リスクを下げる効果がある"

ということです。

 

つまりフッ素と言えど、
絶対に虫歯を防ぐ魔法の薬ではありません。

フルオロアパタイトはpH5までの酸性に耐えますが、
食事をすれば歯はpH4まで下がるので、
結局はエナメル質が溶け出してしまいます。

 

フッ素の効果は防御力や再生力がアップすること。

結局、飲食の回数が多ければ虫歯にはなるのです。

よって、フッ素の効果を過信しないことも大切です。

 

虫歯リスクをもっとも下げる方法は、
糖質の摂取を控えること。

仮にフッ素をまったく摂らなくても、
飲食の回数が少なければ虫歯にはなりません。

 

そのため糖質の制限を最優先で考えつつ、
サブでフッ化物応用と取り入れる
という順番で考えましょう。

その上で、フッ素の効果は
間違いなく実証されているので、
摂ったほうがいいということです。

 

そんなフッ素配合歯磨き粉の
もっとも効果的な使い方などは、
また別途記事にまとめます。

お楽しみに!